福島第一原子力発電所に関して原子力安全・保安員は2011年4月18日の会見で、溶けた燃料棒が原子炉下部に落ちることをメルトダウンと“定義”した上でメルトダウンは起こっていないと述べ、論議を招いた。

実は英語の(core)meltdownは、この英語版Wikipediaの記事によれば、国際原子力機関(IAEA)や米・原子力規制員会(NRC)などの公式用語ではない。国際規格としてはISO921の「炉心溶融(英語 core melt)」(=JIS Z 4001:1999「原子力用語」に採用)「炉心の冷却が十分に行われない状態が続くことによって、溶融に至ること」)と同義と考えられそうである。

しかし、おそらくmeltdownという語の 'down' という部分の印象や、炉心は核燃料のことであるのに原子炉の中核を成す構造物であるかのように聞こえる印象が影響している。そのため、メルトダウンは圧力容器の底を溶かして格納容器に落ちることと勝手に定義されたり、チャイナ・シンドロームのように格納容器さえ溶かしてその台以下まで至ることと解釈されたりしている。

このように、ひとつの言葉が人や機関によって、重大度の違う事故を指している。したがって、メルトダウン(meltdown)という語を使って質問したり説明したりすることは、日本語でも英語でも、「メルトダウンが起こっていない」「いや起こっている」といった不毛な議論の元となるので注意を要する。

また、上記のように、炉心と言葉についても、炉心シュラウドや圧力容器のような構造物を思い浮かべてしまう誤解がある。誤解を完全に防ぐには、炉心溶融の代わりに燃料溶融という言葉を使うか、より具体的に何々(ジルカロイ製の被覆管とか燃料ペレットの皮膜や中の二酸化ウラン部分あるいは圧力容器の底全体)がどのくらいの割合溶けた状態かを具体的に表現した方がよい。

溶けていなくてただ被覆管が破損している場合は、炉心損傷(core damage)あるいはより望ましくは燃料損傷(fuel damage)と言えばよい。

圧力容器を燃料が溶融貫通したかどうか問題にしたいなら、メルトダウンという言葉を使わずにまさにこの通りの表現で言えばよい。

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